Research interests

マクロな生命現象を理解する

進化学は選択(自然選択や性選択)や確率的浮動というプロセスにより、形質の進化の機構を明らかにすることを第一の目的としてきた学問です。一方、生態学は、生物と環境、あるいは生物同士の相互作用をもとに生物の人口学的動態を明らかにすることを本懐としてきました。必然的に、個体よりも高次のレベルの生物学的動態を扱うマクロ生物学という分野の中で、進化学と生態学は独立に発展してきたという経緯があります。しかし、現実には、選択や確率的浮動により集団のメンバーの平均的な形質が変化すれば、その生物種の集団動態や種間相互作用といった生物の人口学的動態が改変される可能性があります。例えば、自然選択によってより多くの子孫を残す形質が選択されれば集団の増加率が増加するでしょうし、過度な性選択形質や利己性の進化、自家不和合性の進化は集団の増殖率を低下させると考えられるのです。確率的進化によって多様性が高まることは、進化を促進する場合もありますが、非適応的遺伝子が過剰に流入してくる場合には、集団の最適化は妨げられるはずです。さらには、集団の存続可能性の増減は、系統選択というプロセスを通じて群集構造や生態系機能、大進化パターンにも影響するはずです。しかしながら、 人口学的動態に対する「進化の副産物的効果」は、理論的・数学的簡便化のために見過ごされてきたと言わざるを得ません。私は、進化の副産物という視点から進化学と生態学の橋渡しを行なうことで、生物の時空間的な動態やより高次の生命現象の理解するための新たな理論を構築することを目指しています。生物種を問わず、ゲノム解析からフィールドワーク、ビッグデータ解析を駆使しながら、種間の関係や個体間の関係、雌雄の関係、遺伝子間の関係など、自然界に潜む生態学的あるいは進化学的に重要な様々な原理や一般則を探求すべく研究をしています。

Evolutionary changes, which are caused by both selection and genetic drift, should affect population-level absolute fitness and thus can potentially alter the dynamics of populations. Natural selection, which favors individuals having higher relative fitness, is typically expected to increase the average absolute fitness and population productivity. On the other hand, in some situations, natural/sexual selection is suggested to decrease population productivity and increase extinction risk, which is exemplified by cases such as the tragedy of the commons, evolutionary suicide or extinction. Gene flow among populations with different environmental condition may also decrease population absolute fitness. I am interested in the evolutionary processes of traits and its side effects on demographic dynamics. Quantifying the role of evolutionary changes on overall population performance will increase our understanding of ecological dynamics including demography, range expansion, community dynamics, ecosystem function and extinction risk and elucidate how these processes in turn affect macroevolutionary dynamics.

 

遺伝的多様性の進化の生態的帰結

種内の多様性はあらゆる生物で普遍的に見られる現象であり、進化の源泉でもあります。多様性は集団内に存在する選択圧により積極的に維持される場合もあれば、突然変異や遺伝子流動と負の選択のバランスの結果としてある意味では消極的に保たれる場合もあります。私は、多様性の成立過程に着目しながら、多様性が直接的あるいは進化を通じて間接的に集団の人口学的動態に与える影響に興味をもって研究をしています。野外生物やデータベース、ゲノム情報、数理モデルなどを駆使しして、遺伝的多様性の進化と個体群動態や群集動態、生態系機能を結ぶ一般則を探しています。以下のテーマが、最近進めている研究テーマです。多様性の進化の生態的帰結は、その成立過程や作用機序によって実に様々で、このような視点から、繁栄の程度の系統(種や集団)差やそれぞれの種の分布パターンの成立機構などが徐々にわかってきています。

自然選択により積極的に維持されている多型に関連するテーマ

少数派のタイプが得をする(多数派よりも適応度が高くなる)状況があるのなら、多様性が高いほど集団全体の平均的な適応度が高まると考えられます。実際、種内の多様性が選択圧により積極的に維持される場合に、集団の増殖率や安定性を高めるという理論的な予測があります。私は、様々な生物の色彩多型や行動の多型、資源利用形質の多型に注目し、その生態的帰結を調べています。

  1. 雌の色彩多型の進化と個体群動態の関係(アオモンイトトンボ)(Takahashi et al., 2014)【詳細
  2. 採餌行動多型と個体群の中長期的動態の関係(キイロショウジョウバエ)(Takahashi et al., in prep.)
  3. 超優性による花色多型の進化の生態的帰結(ニワゼキショウ類)(研究中)
  4. 多型の有無をと種の分布パターンや絶滅リスクの関係(鳥類や両生爬虫類、昆虫などのデータベースを用いたメタ解析)(Takahashi et al., in prep.)

確率的進化によって消極的に維持されている多型に関連するテーマ

突然変異や別の集団からの個体の流入などにより無理やり創りだされた多様性は、集団にとって重荷になる(平均適応度を低下させる)ことが多いと考えられます。集団中に非適応的な対立遺伝子の頻度が増加するためです。このような言わば消極的な多様性は、集団の増殖や進化を妨げる可能性があります。一方で、たとえ突然変異や別の集団からの流入によって高められた多様性だとしても、それにより進化が促進されるならば、間接的に集団のパフォーマンスが高まることもあるかもしれません。私は、確率的な多様化・非多様化の観点から生物の分布限界(北限など)の成立メカニズムを検証しています。

  1. 遺伝子流動による多様性の創出と移住荷重による適応制限と分布限界の成立(チリメンカワニナ)(研究中)
  2. 多様性の欠如による適応制限と分布限界の成立(アオモンイトトンボ・アジアイトトンボ)(Takahashi et al., 2016)【詳細】

遺伝的多様性の維持機構

色彩多型は様々な分類群で認められる現象です。色彩は様々な選択圧を受ける可能性のある形質なので、野外で観察される色彩多型の多くは何らかの平衡選択によって維持されていると考えられています。しかし、それを実証した例は多くありません。私は、これまでに以下のようなテーマに取り組んできました。

  1. アオモンイトトンボの色彩多型の維持機構(Takahashi et al., 2010など)
  2. ニワゼキショウにおける超優性による花色多型の進化(Takahashi et al., 2015)

 

遺伝的多様性の空間勾配

種内多型のある生物では、型の比率がどの集団でも一定であることは少ないです。型の比率が空間的になだらかに変化する場合、そのような空間変異をクラインと呼びます。型の比率のクラインは多くの生物種で認められるものの、その成立の機構を実証した例はごく僅かです。なぜなら、型の比率のクラインの成立を証明するためには、各集団に多様性を維持する選択圧(平衡選択)と空間的に方向性選択の強さが異なることの両方を示さなければならないためです。私は、アオモンイトトンボとニワゼキショウの色彩多型を用いて、型比のクラインの成立機構を検証しました。

  1. 繁殖干渉を介したニワゼキショウの花色多型における生息地内での空間勾配(Takahashi et al., 2016)【詳細】
  2. アオモンイトトンボの色彩多型の地理的勾配(Takahashi et al., 2011; 2014)

種内多型と表現型統合

ある形質が変化すると、別の形質の最適値に影響することがあります。また、複数の形質が組み合わさることで、最適な振る舞いをできるようになることも少なくありません。形質はそれぞれが独立に変化するのではなく、互いに影響し合いながら進化するのです。このような複数の形質の統合的な進化は、表現型統合と呼ばれます。また、表現型統合を引き起こすような選択圧を相関選択と呼びます。私は、主にアオモンイトトンボを用いて、表現型統合の存在やその適応的意義を調べてきました。ただし、このような統合が複数の遺伝子の連鎖によって生じているのか、ある遺伝子の多面発現効果によって達成されているのかはわかりません。

  1. 体色と繁殖形質の統合(Takahashi & Watanabe, 2010など)
  2. 体色と産卵行動の統合(Takahashi & Kawata, 2013)

色彩多型の遺伝基盤の探索

近年、いくつかの非モデル生物で、種内の色彩や行動の多型に関わる遺伝子特定されています。現在、トランスクリプトーム解析やゲノム解析をはじめとする分子生物学的手法を用いて、アオモンイトトンボとニワゼキショウの色彩多型に関わる遺伝子の探索を行なっています。このような解析を通じて、多型の進化の歴史や、上述の表現型統合の分子基盤を明らかにしたいと思っています。アオモンイトトンボについては、東北大学の高橋迪彦氏が中心となり解析を進めています。